1.負の屈折率を持つ物質(NIM)は、新奇な電磁現象を示す新しい系として注目されている。非線形波動理論の立場から、その基本的特性を考察した。変調されたパルスは、小振幅のソリトンとして、負の屈折率を持つ物質を伝播することが示された。理論的にも応用面でも、まだ多くの興味深い現象が隠されている研究課題である。 2.3成分のボース・アインシュタイン凝縮体を記述するGross-Pitaevskii(GP)方程式に対して、我々は2004年、結合定数が満たすべき可積分条件を発見した。今回の研究においては、結合定数が一般的な場合から出発し、パンルベ判定法を用いて、3成分GP方程式の可積分構造を解析した。解析は非常に複雑であり、時間を要するものであった。結果として、ソリトン系(可積分系)となるのは、3成分Manakov方程式と我々が発見した条件の場合に限られることが証明された。この論文は、December 2009 issue of Virtual Journal of Atomic Quantum Fieldsにも集録されている。現在、パンルベ解析法を、5成分の場合に拡張する研究を行なっている。 3.電磁誘導透過(EIT)現象におけるソリトン伝播を詳細に調べた。特に、2ソリトン解を求め、その衝突の性質を明らかにした。衝突の様子は極めて多彩である。初期条件により、通常の弾性的衝突、エネルギー交換、パルス圧縮、スイッチイングなどが起きる。ソリトンの発見から40年を経て、多成分系のソリトンへの拡張が明確になり、制御可能になってきた。量子情報処理などへの応用を図っていきたい。 今年度は研究計画の最終年にあたるが、多成分ボース・アインシュタイン凝縮体とその応用について、多くの新しい知見を得ることができた。当初の計画目標を達成するとともに、最後まで興味深い研究が遂行できたと考える。
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