磁性体には、磁性を担う粒子の特性、結晶構造などのため、さまざまな競合する磁気的相互作用が競合することがある。このような系では、さまざまな異なる状態がエネルギー的に近接して存在し、単純な秩序状態が不安定化して、わずかな熱ゆらぎ、量子ゆらぎにより新しい状態が安定化する可能性がある。このようなフラストレーション系と呼ばれる系は、新奇な物性を示す物質の発見や、純粋に理論的な興味からも、おおいに関心を集めている。なかでも、強磁性、反強磁性といった、従来から良く知られてきた秩序状態のカテゴリーに属さない「スピン液体」、あるいは新しいタイプの量子秩序状態といったものが大きな関心を集めている。しかし、新奇秩序状態の研究の現状は、具体的な系(モデル)に対して数値計算などを行って個別に調べられているところであり、系統的、統一的理解にはほど遠いの状況にある。本研究では、このようなアプローチの一環として、主に、contractor renormalization(CORE)と呼ばれる方法を用いた正方格子上の新奇相に対する統一的理論の構築、二次元三角格子の一部を切り出してきたものと捉えることのできるジグザグ鎖と呼ばれる一次元格子上のスピン1のモデルの新しい相の研究、強磁場中で新しい性質を示す正方格子上のS=1/2モデルの物性の研究、の3つを行った。その結果、しばしばp-タイプ・ネマティックと呼ばれる一種のカイラル相がある種のボーズ・アインシュタイン凝縮として理解されること、ジグザグ格子上では、新しいタイプの三量体相があること、正方格子上のS=1/2モデルでは、磁気的素励起の「分子状態」が凝縮することで実験でみられる異常な磁化過程が起こりうること、などを示した。
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