研究概要 |
本研究では、測度論的構造の解明を基礎として、ハミルトン系が非平衡状態に置かれたときに示す力学過程の長時間挙動の統計則を明らかにすること、いわば非平衡状態のSRB測度の構造とエルゴード特性を解明することを目的としている。 今年度は、まずハミルトン系に特有のスケール則や1/fスペクトル、さらに繰り込み群構造を典型的に示すビリアードモデルによってSRB測度の構造が長時間挙動に及ぼす影響を理論化することに成功した(T.Miyaguchi and Y.Aizawa ; Spectralanalysis and an a rea-Preserving extension of piecewise linear intermittent map, Physical Review E, 2007,投稿中)。これによって、多自由度系の部分系自由度に注目しても、明確なエルゴード特性やSRB測度の構造を抽出できることが明らかになった。さらに、多自由度系の非平衡定常状態の研究に進み、熱伝導状態のエルゴード特性を見るために、格子振動非線形モデル(1次元)と剛体球ガスモデル(2次元)によって、熱伝導率を明確に示す計算機実験系を作ることができた。熱浴としてはランダム力の場合と混合性を持つ熱浴の二つの場合を考えどちらも熱伝導を実現することを確かめたが、気体モデルはランダム力熱浴が容易であることを示している。現在はFourier則を確かめ、その結果、熱伝導におけるガラボッチーコーエンのFluctuation Theoremが明瞭に成立していることを確認した段階である。 熱伝導定常状態を力学的に実現できたことによって、これからの計画では、局所Lyapunov SpectrumとLyapunov Vector、さらにリーマン曲率の計算によって局所エントロピーとその揺らぎの解析に進む予定である。
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