非平衡状態におけるエルゴード論的構造をゆらぎの分布関数によって特徴づける、という方針の下で (I)剛体球力学系及び格子力学系モデルを用いたゆらぎ定理の成立条件の探求、 (II)長時間ゆらぎ(非双曲系及び非定常カオス系)の普遍則の探求、を推進した。 (i)ランジュバン熱浴をもつ熱伝導(フーリエ則)の下で、線形領域及び非線形領域のゆらぎ定理をシミュレーションによって確認すると共に、それらがキュムラント展開で得られる結果と良く一致することを理論的に示すことが出来た。その一方で、熱浴としてNose-Hoover型の境界条件の場合には、低温度になるにつれてフーリエ則からのずれが顕著になることが示され、ゆらぎ定理そのものが大きなゆらぎを持つことが明らかになった。これはハミルトン力学系のもつ近可積分系特有の長時間ゆらぎ(等分配則の破れ)として予想したものであり、ハミルトン化した非双曲力学系においても緩和関数が逆べき減衰するという理論結果と対応していると考えられる。ハミルトン化した非双曲系では、さらにリャプノブ数の分布がレビィ的になるという数値結果も得ており、低温熱浴に対する新しいゆらぎ定理の精密な計算を進めている状況である。 (ii)周期的シアをもつ剛体球力学系では、運動量輸送についてのゆらぎ定理の精密計算を進め、エントロピー生成を伴う散逸成分とそれを伴わない非散逸成分を明瞭に分離することに成功した。散逸成分については、理論的にも完全にゆらぎ定理に妥当することを導いた。一方、非散逸成分については、現在まだ理論的に完全には導出できていないが、数値計算では明確な応答一ゆらぎ関係が存在することが示された。これは、新しいゆらぎ定理として理論化できる普遍則と考え、その導出に現在取り組んでいる。
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