本年度の研究では、次のような成果を得た (1) 量子ゲームを定式化する際に、他プレーヤーへの拡張を容易にするための、戦略空間の一般的ベースとしてシュミットベースを用いる定式化を完成させた。このアプローチと、以前に発見した全=筒井の戦略状態構成に基づくアプローチを、囚人ジレンマゲーム、スタグハントゲーム、男女の諍いゲームの例で詳細に比較した。その結果両者で細部には違いが見られるが、大きな意味で量子戦略の古典戦略との異動についての結論を変えないことを確認できた。 (2) 前年度にわれわれが発案した、ヒルベルトベクトルを陽にださずに、連結戦略を両者の戦略の直積でない「非分離的」な確率として表すゲーム理論の新しい定式化を、多プレーヤーゲームに拡張できることを示した。囚人ゲームの3プレーヤー版において量子ナッシュ均衡にディレンマを回避するものが存在することを発見した。 本年度、そして本研究全体を通じて、量子ゲーム理論を古典的ゲームの拡張としてどこまで「古典的」理解できて、どこから「本質的に量子的」な要素が現れるのか、そしてそこでのエンタングルメントの果たす役割は何か、という当初の問いへの、一応の解答を得ることができた。
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