反陽子ヘリウム原子は、高精度なレーザー分光実験によりそのエネルギー準位間の遷移周波数が測定されている。この実験結果と申請者の理論計算との比較から反陽子の質量の不確定さ(10^<-8>以下)が決定され、バリオンに関する最高精度のCPT不変性の検証になっている。最近実験精度が1桁向上し、これと比較できる高精度理論計算が切望されている。本研究では、反陽子の質量等の反陽子に関する基礎物理定数を高精度に決定するために、これまでの計算精度を大幅に改善した。また、ここで開発された計算手法「ガウス関数展開法」を他の粒子系に適応し、手法の普遍性を確かめるとともに、通常の原子分子に無いエキゾチック原子分子系の特異な性質を明らかにした。 反陽子ヘリウム原子のエネルギー準位の計算精度を向上するため、核間の動径波動関数の改善を行った。最適な基底関数系作るため、水素分子の高振動励起状態を例にとり、本研究で用いる変分計算と微分方程式の数値計算による直接解法を比較した。その結果、ガウス関数に動径のべき乗をかけた基底関数、ガウスパラメータを複素数に変えた基底関数のどちらもがこれまでの原点にピークを持つガウス関数より計算精度が1桁以上向上する事が分かった。この新しい基底関数を用い、反陽子ヘリウム原子のエネルギー準位を再計算した。今後、新しい実験値との比較により反陽子の質量の精度が向上されることが期待される 昨年度に引き続き、本研究で開発されたガウス関数展開法を用い、反陽子同様負電荷をもつ重い粒子であるスタウ粒子(タウ粒子の超対称性粒子)や、反陽子同様に反粒子で原子分子と特異な結合様式をとる陽電子の束縛状態や共鳴状態の計算を行った。スタウ粒子は非常に小さいサイズの原子分子を形成し、その分子内で触媒核融合反応を引き起こす。特にこの核反応はビッグバン直後の初期宇宙での元素合成重要な役割を果す事を示した。一方、陽電子原子は非常に大きな原子分子系を形成し、この計算においてもガウス関数展開法が有効である事を示し、粒子系の違いに依存する近似を用いない本研究の計算精度の信頼性を示した。
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