研究概要 |
結晶軸に平行に入射した相対論的イオンの静止系では,結晶場は周期的パルス状のコヒーレント仮想光子となり,いわば「仮想X線レーザー光」とみなせることになる。その電場は,Lorentz因子が十分大きい場合,臨界電場以上の値になる。したがって,結晶場を利用して強電場中の量子電磁気学(QED)を研究することができる。 平成19年度は,結晶場内を進行する相対論的イオンの内殻軌道に電子が生成される束縛状態対生成の理論を構築した。この現象は,強電場QEDの検証としだけでなく,エキゾティック原子や反水素の生成にも適用できるので応用面からも重要である。 チャネリング状態では衝突径数依存性が重要なので,それを取り入れた理論を作る必要がある。本研究では,仮想光子の方法により衝突径数依存性を取り入れた。また,陽電子の終状態には平面波,電子の終状態に相対論的水素様波動関数を用いた計算を行った。 得られた結果を近未来型X線レーザーを仮定したC.Mullerらの理論(C.Muller, A.B.Voitkiv, and N.Grun, Phys.Rev.Lett.91,223601(2003))と比較したところ,結晶の厚さが数cmでMullerらの数値に匹敵することが判明した。この厚さは十分実用的であり,したがって近未来型X線レーザーを必要とするMullerらの理論よりも本研究によって提案する手法の方が,相対論的イオンの束縛状態対生成の実現において有効であることが示唆された。 以上の結果を,2007年日本物理学会春季大会にて「相対論的重イオンのコヒーレント束縛状態対生成」(講演番号:19aXJ-12)という講演題目で発表した。
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