研究課題
基盤研究(C)
平成18年度の当初の目標は、多重電離により放出される複数個の電子を同時に測定するための実験装置を完成させることであった。衝突点で生成する電子は強い磁力線(約5000ガウス)に巻きつけられて飛行管へと導かれる。長さ2.5mの飛行管内は10ガウスの均一磁場に保たれており、また電界フリーである。飛行管の末端には電子検出器によりが設置される。この装置は強い磁場により全立体角に放出される電子を検出することが可能である。さらに磁場の勾配を大きいため、電子の初速と飛行管内での速度はほぼ等しい。従って、電子の飛行時間を測定することにより電子エネルギーを求めることができる。放射光パルスにより光電離が起きた時間を基準とし、検出器に電子が到達する時間を求める。本研究では1回の光吸収過程で複数個の電子が放出される多重電離過程を観測するため、1回のスタート信号に対し複数のストップ信号が受け付けられるタイム・ディジタル・コンバータを用いる。放射光パルスの間隔は、KEK/PFの蓄積リングでは、0.62マイクロ秒である。本申請では電子エネルギーに対する分解能を重視するため長さ2.5mの飛行管を提案しており、そこでは数eV以下の電子の飛行時間は数マイクロ秒となる。このような条件では、生成する電子の相関についてのあいまい性を完全に拭い去ることは非常に難しい。したがって、放射光パルスを間引く必要がある。私たちはパルスを間引くために機械的な光チョッパーの製作を予定している。およそ1000回転/秒のターボ分子ポンプの回転部分に幅130ミクロン程度のスリットを複数個取り付けることにより、ゼロエネルギーに近い電子までを測定可能とする十分パルス間隔が実現できる。光チョッパーはオンラインのテストも終わり、所定どおりの性能が出ていることを確認し、19年度には実用化する。これとは、チョッパーなしで、Neの内殻電離に伴い、外殻電子も電離されるいわゆる二重電離過程について、2つの電子のエネルギー分析まで行う直接観測に成功し、Physical Review Lettersに発表した。
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Physical Review Letters 97
ページ: 053003
Journal of Physics B, Atomic, Molecular and Optical Physics 39
ページ: 3457
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