生体エネルギー共役過程は生物が生理活動を行う際における最も重要な反応過程である。そこでは、放熱反応で放出されたエネルギーが、周りに散逸してしまう前に、(単独では起こらない)吸熱反応を駆動するために使われる。放熱反応と吸熱反応の間のエネルギー仲介は蛋白質によって行われる。仲介時間はミリ秒程度である。ところが、エネルギー仲介蛋白質が無い場合には、放熱反応で放出されたエネルギーが散逸する時間はピコ秒程度であるため、そのエネルギーをミリ秒程度の時間に渡って散逸しないように保持しておく機構がエネルギー仲介蛋白質に備わっていなければならない。ピコ秒とミリ秒の間には10の9乗倍もの違いがあり、その間エネルギーを保持しておく機構が何か?解明することが、生体エネルギー共役過程を解明する際にまず最初に行わなけれはならない。 光合成は地球上の全生命にとってのエネルギー源であり、それを構成する諸過程においては生体エネルギー共役過程が随所に使われている。光合成初期過程においては、まず、太陽光エネルギーの捕獲、その伝達、およびその初期固定が行われる。それらは全て物理学および化学でよく知られた割合単純な物理過程の組み合わせにより構成されている。その後にそのエネルギーが(単独では起こらない)吸熱反応を駆動するために使われる。従って、光合成初期過程は、生体エネルギー共役過程におけるエネルギー保持機構を解明するために格好な例となる。本研究においては、このエネルギー保持機講の具体例として以下の三つの場合についてミクロな機構を明らかにした。 1)緑色植物および藻類の光合成光化学系IIにおいて、コアアンテナにおける色素励起として溜まったエネルギーを反応中心が捕獲するミクロな経路の解明(第一発表論文)。 2)上記のように捕獲されたエネルギーは電荷分離状態を誘起することにより初期固定されるが、その電荷分離状態がスピン三重項状態を誘起して消滅するミクロな経路の解明(第二発表論文)。 3)電荷分離により得られた電子を受け取って、次にそれを受け取る器官にまで運ぶ電子の運び屋として電子伝達蛋白質があり、そこにおける電子受け渡し機構のミクロな経路の解明(第三発表論文)。
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