★緑色植物の光化学系IIにおける三重項励起状態形成に関わる協奏的電子移動過程の理論的解明 どの光合成反応中心においても励起エネルギー固定として電荷分離状態が形成されるが、緑色植物の光化学系IIにおいては、それはまず中心クロロフィル対(P)から隣接するクロロフィル単量体(B)への電子移動となっている。その後、電子はBに隣接するフィオフィチン(H)に移され、更に隣接するキノンに移される。しかし観測によると、このような一連の電子伝達の途中においてP^+とH-対の状態からある確率で電荷の再結合が起こり、両者の中間に位置するB上にクロロフィル単量体のスピン三重項励起状態が形成される。この三重項状態は光合成にとって鬼っ子であり、光合成で発生する気体酸素分子(基底状態でスピン三重項)と相互作用してそれを一重項(即ち、活性)酸素分子に励起する。活性酸素分子は光合成組織を急速に酸化し、破壊する。そのため、Bの三重項状態形成を押さえることは光合成の効率を高めようとする農業的要請にとって重要であり、種々の研究が行われて来ている。しかしそのためには、Bの三重項状態形成の機構を知ることが肝要であるのに、分かっていなかった。P^+からBへの正孔移動とH-からBへの電子移動が協奏することにより電荷分離状態P^+H-からBの三重項状態が一足飛びに出来ることを初めて明らかにした。 前年度においては、紅色細菌の光合成光化学系における三重項状態形成機構を明らかにしたが、それとは、緑色植物の光化学系IIにおけるものは基本的に異なっている。前者では、P^+B-状態を量子力学における虚の中間状態とする仲介により、電荷分離状態P^+H-が(B上ではなく)P上の三重項状態に一足飛びに変化する。ここに、水を酸化することにより電子を得て光合成を行う画期的に新しい形が緑色植物において初めて実現出来たことの反映を見て取れる。
|