研究概要 |
本研究の最終目的は、生体系においてしばしば見出される中間分子媒介による協奏的電子、励起およびプロトン移動過程の理論的記述、および生体系におけるその役割の理論的解明である。そのためにはまず、協奏的過程の速度定数を与える理論式が確立していなければならないが、その式は2001年に提出したSumi-Kakitani理論(J.Phys.Chem.B 105, 2001, 9603)により与えられると考えていた。ところが、2005年にMillerらは、化学的に合成した中間分子媒介電子移動系の速度定数がSumi-Kakitani理論の与える中間分子エネルギー依存性から大きくはずれると結論する論文を出版した。そこで、私たちは彼らの解析の不備を指摘し、この不備を直せば、彼らの実験結果はSumi-Kakitani理論により記述出来、この理論の良い検証例であることを示した。 協奏的反応では、始状態から中間状態への遷移の後に両状態間の量子力学コヒーレンスが失われない内に中間状態から終状態への遷移が起こる。このような状況において、中間状態が終状態への遷移または始状態への逆戻り遷移により中間状態が有限の寿命を持つことがSumi-Kakitani理論において必須である。しかるに、この寿命に関係する項はSumi-Kakitani理論では天下り的に与えられていた。この項が理論的に導出できることを証明し、Sumi-Kakitani理論を完全なものにした。 上記二つの仕事を優先せざるを得なかったため当初の今年度計画が滞ったが、仕方ないことだった。
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