本年度行なった研究の第一は、生物集団の統一模型の原型と想定している2次元最適速度模型において、一様な歩行者流の安定性の線形解析である。最適速度模型を歩行者に適用した場合、「歩行者は特定の方向に向かって進む」という性質が取り入れられる。その結果、空間軸の一つが特別な役割を果たすため、解析は簡単になる。昨年までの研究で、歩行者(以下粒子と略す)間の相互作用が斥力のみを含む場合については、一様流の安定性は明らかになっている。2次元では1次元の場合と異なり、高密度領域ではすべての感応度に対して不安定となる一方、低密度領域はほとんどすべての感応度に対して安定となっている。しかし今年度、引力も含めた場合に拡張して解析を行なった結果、引力がたとえ微小量でも存在すれば、低密度領域はすべての感応度に対して不安定となり、安定な領域は最適速度関数の勾配の大きい領域のみに限られることがわかった。最適速度模型では、粒子間に引力がある場合とない場合では1つのパラメタの値が異なっているに過ぎないにもかかわらず、得られる安定性が全く異なる物理的な機構についてはまだ不明である。この研究成果は2006年の国内および国際会議で発表を行ない(研究発表の1、3)、現在論文を執筆中である。 上記の模型において、低密度で不安定な領域において数値シミュレーションを行なうと、粒子がいくつかのグループを形成し、各グループ間にはほとんど相互作用がない状態が最終状態として得られる。生物模型としては一つの方向を特別扱いしないようにする必要があると考えられるため、この状態が生物の群れ形成と見なせるかどうかについては、現在検討中である。
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