本年度の研究としては、統一模型の原型と想定している2次元最適速度模型において、特定の方向へ進むという条件の下での安定性の解析を行なった。これまでの一様流の解析では、集団は空間全体を一様に埋め尽くすという条件の下で行なわれていたが、生物集団においては集団の大きさが空間内の有限の領域にのみ存在するという想定が必要である。本研究において、このような条件の下で安定性を調べると、これまでの一様流の状態では安定であったパラメタ領域においても、不安定になることがわかった。この不安定性の結果生じる運動は蛇行運動である。これは、魚などの群れが進行方向に長くなったときに現れる現象の力学的機構となる可能性がある。また、蛇行の不安定性はすべてのパラメタ領域で発生するため、一様かつ安定な状態は存在しない。即ち、2次元最適速度模型の範囲内での不安定性の議論としては本研究成果は最終的なものになる。以上の成果は年度当初の計画通りであった。この成果については現在論文執筆中であるほか、2010年度の国際会議で発表する予定である。 これまでの成果をまとめると、1次元交通流における一様流の不安定性による渋滞機構、2次元歩行者流における詰まり現象などの力学的機構、2次元での生物集団の蛇行運動の3つが、一様流の不安定性という枠組みの中で統一的に理解できることになった。また、この枠組み内での不安定性による機構は以上の3つがすべてであり、これ以外の生物の集団運動に現れる現象の性質を調べるためには、模型の拡張が必要であると結論付けられる。
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