本年度の研究は、特に、マントル最上部の構造に大きな影響を与えていると思われる水の存在を探る手段として、地震時の応力・すべり関係の不均質分布を利用するという新しい試みにおいて、成功をおさめた。チリ北部で発生したやや深い大地震において、プレート内の流体不均質が地震時のすべり構成関係の空間不均質を生じたことを示唆する証拠をえた。この地震の余震は水平に分布し、水平な断層面で地震が起きたと考えられる。数百km以内の距離で記録された地震波形およびそのインバージョンから、破壊過程には2つの高すべり領域があったことがわかる。遠地P波波形等の解析とあわせて、2つの高すべり領域は、東へ沈み込むプレートを横切るように、東西方向に起こっていることが明らかになった。地震波形インバージョンから決定されたすべりの時空間変化から、断層面上での構成関係を決定した。2つの高すべり領域に対応して、応力降下が大きい2つの領域が存在するとともに、その間には負の応力降下をもつ領域がある。この応力降下の正負の空間分布は、2重深発地震面の考えと調和的であると同時に、Urata et al.(2008)の手法を用いた数値シミュレーションから、地震時の摩擦熱を考慮した間隙流体圧の変化でうまく説明できることを立証した。 この他、2008年カムチャッカ半島付近で発生した非常に珍しい深発大地震のScS多重反射波の波形データを用いて、よくわかっていなかったオホーツク海下のマントル速度・減衰構造を決定した。南米、日本下で行ってきた私たちの過去の研究結果との比較から、日本海下に見られる構造と類似することが明らかになった。南米のマントル最上部にみつかっていた特異な構造はみられなかった。
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