平成19年度は、防災科学技術研究所のHi-netやF-netの地震波形データや気象庁一元化データからP波やS波の到達時刻データを収集した。地震波形データのレシーバ関数解析やP波到達時刻データのP波トモグラフィー解析により、地殻や最上部マントルのP波異方性及びS波異方性の3次元的構造を推定した。その結果、四国地方の上部地殻は東西方向に早いP波異方性を示し、中国地方では南北から北東-南西に早いP波異方性がみられることがわかった。中国地方にみられるP波異方性の特徴は、同地域の観測点のレシーバ関数解析やこれまのS波スプリティング解析で得られたS波異方性と調和的であった。一方、四国地方のP波異方性は、西南日本に作用している広域応力場の分布と矛盾していないことが示された。このことから、中国地方の地殻上部の地震波異方性は、線形的な地質構造に起因し、四国地方のそれは広域応力場によって地殻内部に発生した割れ目の配向または地質構造に起因するものと解釈した。最上部マントルのP波異方性については、フィリピン海プレート内の異方性と、マントルウエッヂ内の異方性に分けて推定した。マントルウエッジ内では、中国地方の日本海沿岸と瀬戸内海沿岸の間に存在する境界線を境に、前弧側の地域で南海トラフに直交する方向に速度が速いP波異方性と、背弧側の地域でトラフに平行な方向に速い異方性が検出された。フィリピン海プレート内では、P波が速く伝わる方向は、プレートの沈み込む方向とほぼ一致しているように見える。このような異方性の地域的変化は、プレートの沈み込みに関連した水の有無がオリビンの変形に作用した結果であると解釈した。さらに、P波トモグラフィー解析を用いて、日本列島全体の地殻異方性についても調べた。P波が速く伝わる方向は、日本列島の水平圧縮の主軸方向と概ね一致した。また、糸魚川-静岡構造線に沿う帯状の地域で、南北方向にP波速度が速い異方性が検出された。以上の結果の一部は、日本地震学会や学術専門誌に発表されている。
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