○2005年に実施された「石垣島東方沖断層」のROVによる目視観察の際に得られた映像資料の詳細な解析を実施し、地形データとも併せて考察を行った。その結果この断層は、その南端の部分が最初に形成され、次第にNNW方に伝播し、現在の44kmの長さに達したこと、また、NNW端は断層破砕の最も初期段階にあることが明らかとなった。このような断層の北方へ伝播は、沖縄トラフの拡張に伴う島弧域での張力場の発達モデルとも整合性がある。さらに、断層のセグメント構造の存在を考慮すると、このような断層の伝播は断続的に起こり、それによりセグメントが南から順次北に向かって形成されたことが推定される。この断層全てが一時にスリップを起こしたとは考えにくい。 ○2008年7月には、同じくROVを用い、断層中部のセグメントに於いて約7kmの調査測線を設け、断層崖から背後の石垣鞍部に至るまでの海底変動の目視観察を行った。石垣鞍部上に主断層から発達する分岐断層の存在が明瞭であるが、この分岐断層の実態が比高10〜15mの急崖であり、また主断層の伝播と呼応して発達したことが明らかとなった。 ○南西諸島の地殻変動場を解析した結果、与那国島付近でスロー地震が発生していたことが判明した。このスロー地震は与那国島直下で2001年後半から2006年にかけて発生した。スロー地震のマグニチュードは7.2と、過去他の地域で報告されているスロー地震と比較して最大級のものである。スロー地震は通常、海溝型巨大地震発生域周辺で発生していることが大多数であることを考えると、南西諸島南部でも海溝型巨大地震の起こる可能性が出てきた。このように南西諸島で巨大津波を発生しうる地震の候補を考える上で新たな知見が得られた。 ○琉球前弧域の地震活動は背弧域の沖縄トラフよりも低いために、この領域の応力場を求めるには十分なデータが必要であった。また個々の地震のメカニズム解自体は必ずしも応力場を反映するわけではないため、応力場の解析のためには複数の地震のメカニズム解を要するため、長期間のデータが必要になる。一方、一般に従来の応力解析では応力場が均質であると仮定できるデータセットに対して解析を行い、そのデータセットを反映した一つの均質な応力場を推定する。ここでデータセットの選択は解析者の主観に依存するが、背弧から前弧への応力場の移り変わりが示唆されている領域における応力解析では、不均質な応力場が取り扱えること、解析者のデータ選択の主観に依存しない応力解析の手法が望ましい。そこで多重逆解法を用いて琉球弧中部において背弧から前弧にかけてのデータを用いて応力場の解析を行った結果、背弧では応力比φが0.2程度、前弧ではφが0.7程度に求められ、背弧ではσ1>σ2=σ3に近い状態、前弧で伸張方向が変化してarc paralle1に近くなりσ1=σ2>σ3に近い状態であることがわかった。これらの応力解析からの情報は、単なるメカニズム解分布のみの情報よりも力学的なモデリングに有用である。
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