研究概要 |
非圧縮性2次元流体は,渦度の任意関数の空間積分を非粘性保存量として持つ.その中でも特に渦度の自乗空間平均値であるエンストロフィーは,最も基本的な物理量と考えられている.なぜならば,以下に説明するように2次元乱流系の発展の大域的な性質を表していると考えられるからである:減衰性2次元乱流中に自発的に出現する軸対称で安定な秩序渦は,異符号の循環を持つものは互いに移流しあい,同符号の循環を持つ渦同士は合体する性質を持つ.秩序渦が合体する際に,渦は軸対象状態から変形し,フィラメント状構造を排出し,それが粘性により散逸する.このような変形,粘性散逸の過程が,渦度の大域的な量としてのエンストロフィーの値に反映する. このように2次元流体において重要な物理量であるエンストロフィーに関して,特に減衰性2次元乱流におけるエンストロフィー減衰法則がいまだ充分に明らかにされていない.高レイノルズ数極限では,vortex scaling theoryによってエンストロフィーの減衰則が記述され,低レイノルズ数ではエネルギースペクトルが自己相似発展を示す減衰則が知られているだけである.そこで,本年度は低Reynolds数から高Reynolds数までのエンストロフィーの減衰則を,詳細な数値実験を行うことによって明らかにすることを目指した. 通常粘性を課した場合について,レイノルズ数Re=15〜512の範囲で減衰性乱流の数値実験を行い,以下の結果を得た. 1)レイノルズ数の増大に伴って,エンストロフィーの時間的な減衰の冪指数は滑らかに減少する. 2)エネルギースペクトルが自己相似発展を示す解と無矛盾なエンストロフィー減衰則はある特定のレイノルズ数状態(Re=15.73およびRe=256)においてのみ実現される. 3)通常粘性を課した場合の数値実験では,vortex scaling theoryと無矛盾なエンストロフィー減衰則は得られず,またそれに漸近していく傾向も見られない.
|