研究課題
前年度までに構築・改良を行った化学気候モデルCHASERを用い、全球オゾン場の過去再現実験を実施し、その変動要因を詳しく解析した。本研究では、特に気象場の経年変動がオゾン分布に及ぼす影響に着目した実験・解析を行い、過去のオゾン変動と、水蒸気変動や大気循環変動などとの相関について、成層圏起源・対流圏起源の両成分に分離し、それぞれ議論した。CHASERモデルで再現された対流圏オゾン分布およびその季節変動は衛星観測データ(TOMS-SBUV)や熱帯域オゾンソンデ観測データ(SHADOZ)と整合的であり、全球各領域における経年変動(トレンド)についてもモデルは観測を概ね再現していることが確認された。また、本モデル実験で得られた、対流圏オゾンの経年トレンドには、ウォーカー循環(エルニーニョ・ラニーニャ変動)、ハドレー循環、モンスーン循環の各大気大循環の変動パターンと有意な相関をしめしていることを明らかにした。特に、中緯度太平洋上には、ハドレー循環の変動パターンと対流圏カラムオゾン量との間に強い正の相関が確認され、近年の温暖化に伴うハドレー循環の強化により、対流圏オゾン量が増加していることも明らかになった。一方、本研究では、オゾンの変動がおよぼす気候影響の定量的な評価も実施した。オゾン変動の要因として、大気汚染に伴う前駆気体のエミッション増加によるもの、成層圏オゾン減少の影響によるものと分離して評価を行った。本モデル計算により再現された全球オゾン分布の変動は、オゾンゾンデ観測によるものと極めて整合的であった。大気汚染増加に伴う前駆気体増加による対流圏オゾンの増加は、全球平均で+0.28℃の加熱効果があり、特に北半球では顕著な昇温を示した。一方、成層圏オゾン減少は全球平均で-0.04℃の無視できない冷却効果を及ぼすことが判明した。
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Journal of Geophysical Research (In press)
ページ: doi : 10.1029/2008JD010876
J. Earth Simulator 9
ページ: 27-85