西部熱帯太平洋に展開中のトライトンブイのデータを用いて表層海洋の変動を調べた。冬から春にかけて、温度(密度)躍層が上昇するのが観測され、数値実験で示唆されているミンダナオドームの存在を支持した。熱容量を指標としたドームの成長の時系列は季節変動が卓越していることを示しているが、2002-03年は他の年に比べると、冬-春の海洋表層熱容量が小さく、また最大・最小を取る月も他の年とは異なっている。これは2002-03年エルニーニョに伴い、この海域からも熱が奪われるという経年変動が現れているものと考えられる。さらに、アルゴフロート等を用い、熱帯域を含めた表層水温・塩分変動の解析を行った。太平洋熱帯域の塩分には、西太平洋から南北熱帯収束帯にかけて気候値より低塩分化が数年間持続的に検出されていた。このことから、ENSOとは別の比較的長周期の塩分変動が存在し、熱帯域での大規模な水循環の変動が起こっていることが示唆された。数値モデルの評価のため、海面水温や等水温深度時系列、海面変位に関してブイデータや衛星海面高度データと比較を行い、ENSOに伴う経年変動の再現性と共に、比較的短周期の西部熱帯太平洋赤道外での暖水変動の再現性を確認した。また空間分解度の異なるモデル結果の比較から、より分解度の高いモデルにおいては、ミンダナオ海流や渦は時間的に安定して存在しており、高解像度モデルで解像された多島海の島や海山などの小スケールの海底地形が海流をコントロールしていることが示唆された。また、赤道外から東部赤道域への海水輸送を調べるために、粒子追跡の予備的実験を実施した。なお、大容量のデータ解析のため、コンピュータ及び外部記憶装置を導入し、熱帯太平洋を対象とした渦を解像する時間間隔でモデルデータをアーカイブした。
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