熱圏/電離圏領域では、極域へのエネルギー流入の増大に伴って大規模な伝搬性大気擾乱(Traveling Atmospheric Disturbances : TADs)が励起され、赤道域にまで伝搬することが知られている。これまでに、観測、数値シミュレーションから多くのTADsが調べられてきたが、それらの伝搬速度、空間的な広がりなど、TADsの多様性を作り出す要因(励起機構)については理解が及んでいない。本研究は、Miyoshi and Fujiwara [2003]によって開発された、地表から大気上端までを含む大気大循環モデル(GCM)を用いた数値シミュレーションから、TADsに代表される熱圏擾乱の基本性質を調べることを目的として実施された。 これまでのGCMシミュレーションから、地磁気静穏時、擾乱時に対応する極域へのエネルギー流入によって、それぞれの場合で特徴的な温度・風速分布や熱圏擾乱がつくりだされることが示されてきた。例えば、地磁気静穏時でも大規模スケールのTADsが励起されること、従来のシミュレーション結果には見られない下層大気起源と考えられる細かな大気擾乱が上部熱圏で生成されていることなどが新たに見出されている。本研究では、地磁気静穏時のTAD励起機構に注目し、オーロラオーバル、夜間の温度異常帯、昼夜境界付近の温度勾配が励起に関係している可能性を示唆した。また、下層大気の影響に着目し、比較的細かな大気変動を上部熱圏で作り出している要因を調べ、地磁気静穏時のTADs励起において下層大気の果たす役割について考察した。
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