研究概要 |
従来行なわれたことのない化石花粉単体の赤外吸収スペクトル測定を実施するために、化石花粉単体を岩石試料から分離する方法をはじめに考案した。泥質岩試料を塩酸とフッ酸で処理して有機物を化学的に濃集し、それをアルミホイル上に薄く広げて実体顕微鏡で観察し、化石花粉の存在を確認する。化石花粉の存在が確認された試料は、アルミホイルに載せたままフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)に付属の赤外顕微鏡下に移し観察し、赤外線を化石花粉単体に直接照射する。この改良された処理法により,測定される赤外吸収スペクトルの精度は極めてよく向上した。 実際の赤外吸収測定では、先ず現生クロマツの花粉を加熱装置で加熱し、天然でのマツ花粉の有機熟成をシミュレートし、加熱温度と赤外吸収スペクトルとの相関を調べた。次に、基礎試錐「由利沖中部」および「本荘沖」の岩石試料から化石マツ花粉単体を分離し、天然での有機熟成に伴うマツ花粉単体の赤外吸収スペクトルの変化を調べた。以上の測定結果から、有機熟成に伴い変化する赤外吸収スペクトル上の官能基は、OH伸縮振動、CH_2+CH_3伸縮振動、C=O伸縮振動、芳香族C=C伸縮振動、CH_3変角振動であることが判明した。これら官能基のピーク強度を、他の有機熟成指標であるビトリナイト反射率(Ro)や統計的熱変質指標(stTAI)と比較すると、両者の間には良い相関関係が存在することが明らかになった。この事実は,化石マツ花粉単体の赤外吸収スペクトルが有機熟成指標として有効である可能性を示唆する。 これらの研究成果は、中国北京市で開催された第23回The Society for Organic Petrology会議で発表し、国際的に議論された。
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