研究概要 |
花崗岩の定置に関連した熱水性粘土鉱床のひとつである島根県東部の鍋山セリサイト鉱床について,鉱体の薄片観察・記載,X線粉末回折,セリサイトの産状や形態ごとのEPMA分析,方解石や残留石英の流体包有物分析,FT年代測定を行い,セリサイトの形成ステージや熱水変質作用の性質を明らかにした.鍋山鉱山のセリサイト(白雲母または絹雲母:鉱物名イライト)はその産状や形態ごとに分類される.細粒およびコロニー状セリサイトは主に長石類を,粗粒セリサイトは黒雲母を起源とする.粗粒セリサイトは花崗岩中の黒雲母が熱水変質作用により,緑泥石,細粒緑泥石,酸化緑泥石,微細セリサイトを経て粗粒セリサイトへ変化して形成された.鉱体中に共生する方解石の一次流体包有物温度は220-240℃であり,一方鉱体中の残留石英の二次的流体包有物温度は220℃と260-280℃のバイモーダルを呈するが後者を主体とする.このことは鉱床形成に関連して温度の異なる熱水が継起的に活動したことを示唆する.鏡下での共生鉱物の包有関係を考慮すると,260-280℃の高温の熱水はセリサイトの形成に,220-240℃の低温の熱水は方解石形成に関与したと推定される.閉鎖温度が2400C程度のジルコンのFT年代についてはセリサイト鉱体と周囲の母岩花崗岩はともに50-52Maと集中した値を示す.このことは花崗岩の定置後の上昇冷却過程において鉱床を形成する熱水が活動した際,鉱体と周囲の母岩花崗岩に大きな温度勾配は存在しなかったことを示唆する.EPMA分析の結果は,セリサイトの産状や形態によらず均質な組成であることを示しており,いずれのセリサイトも同一の熱水変質ステージで形成されたとこを示唆する。
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