研究概要 |
本研究は,三畳紀末に出現し,現在まで生息している主要な海棲プランクトンの一種である石灰質ナンノプランクトンが作り出した石灰質殻,すなわち方解石の微小結晶に着目し,その解析を行うことにより,石灰質ナンノプランクトンの変遷史を検討しようとする試みである.本研究で取り扱う化石は,とくに石灰質ナンノ化石の中でも,その主たるグループである「ナノリス」と「ヘテロココリス」である.これまでの検討により,石灰質殻を構成する結晶の形態,光学的性質とその組み合わせに基づくと,数百種ある石灰質ナンノ化石は,数種類の基本的なタイプに分けられる可能性が高くなった.このことは,石灰質ナンノプランクトンの属や種の違いは,本質的にはわずかな形状の違いによることを意味する.また,石灰質ナンノ化石の中には,長期間の生息レンジを持つ分類群が存在することが知られているが(例えばReticulofenestraなど),それらは同じような形態の種が大きさの変化をしながら存在したのではなく,実際には,古いタイプと新しいタイプとで微細な構造が異なっていることも明らかになってきた.同様に,同じ属に属するとされているものでも(たとえばディスコアスターやスフェノリスなど),古い時代のものと新しい時代のものとではそれぞれを構成する結晶の形状と光学的性質が異なることもわかってきた.これらのことは,同じように見える石灰質ナンノプランクトンのタクサであっても,実は時代によって違いがあり,その進化スピードは本質的には非常に早いことを意味している.同時に,古いタイプが消滅する時期はなんらかの海洋環境の変化の時期と一致するので,かつての地球環境の変遷とともに石灰質ナンノプランクトンの進化が生じた可能性があることを示唆している.
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