本年度は、C/T境界、始新世、および現世の試料について、微生物脂質の有機地球化学分析を行った。 北海道大夕張地域のC/T境界よりの試料は、風化の影響を受けていない炭酸塩ノジュールを分析試料として用いた。従来の泥岩についての分析と異なる結果が得られつつ有る。これまでの研究ではC/T境界に嫌気的メタン酸化を示すバイオマーカーは見出されていなかったが、本研究では著しく低い炭素同位体組成を持つバイオマーカーを複数検出した。炭酸塩ノジュールを分析することで、現世の風化、汚染の影響の少ない分析を行う事ができることが明らかになった。現在、詳細な分析を行っている。 北海道三笠市始新世幌内層中の化学合成群集とseep-carbonateの分析を行った。本研究では、内部をセメントされた貝化石5種とseep-carbonateとされる炭酸塩岩2種について、バイオマーカー分析を行った。貝化石はHuber shenckia ezoensis、Thyasira nipponica(Chemoautotrophic species)、Oyclocardia tokudai、Acila picturata、Portlandia watasei(Associated species)である。分析の結果、炭素同位体組成は大きくばらつき、貝化石からメタン酸化を特徴付けるバイオマーカーは検出されず、炭酸塩岩1個からのみ著しく軽い炭素同位体を持つイソプレノイドが検出された。即ち、貝化石分析結果からは化学合成の証拠は乏しく、1個の炭酸塩からは強い証拠が示された。メタン酸化を行っていた古細菌はANME-2と推定される。 現世のメタン湧出地点数カ所の堆積物の分析を行った。その結果、軽い炭素同位体組成を持たないgem-アルカンが卓越した。現在、その起源について研究を行っている。 これらの分析結果から、嫌気的メタン酸化が行われている環境での微生物の進化と拡散について議論を行っている。
|