今年度は以下のような研究を行った。 1) 現生の多細胞動物の形態との比較 多くの個体の検討から軟体動物に近縁とされているエディアカラ化石生物群の代表的化石Kimberellaについて、現生の軟体動物との比較を試みた。検討に当たっては、京都大学客員教授として招聘したロシア科学アカデミー古生物学研究所Y.A.Ivantsov博士と共同で形態的に類似する平巻きの腹足類および、軟体動物としては原始的な形質を残すとされる多板類、無板類の解剖学的特徴を観察すると共に、保存状態を考慮しながらKimberellaの形態と比較した。その結果、Kimberellaは、器官レベルで現生の軟体動物が示す派生的形質に対比できる形態を持たないことが明らかとなった。 2)環境解析 エディアカラ化石生物群の出現直前の環境解析を目的に、ナミビア国のカオコランドにおいて現地調査を行い、原生代末の氷河期が終わった時期に堆積したキャップカーボネート資料を採集した。現在炭素同位体等の分析の準備を始めている。 Kimberellaを中心とした検討の結果からすれば、エディアカラ化石生物群のボディプランは、最低2層の膜を有することがわかるが、これが多細胞動物における二胚葉性を意味するという保証はない。また、Yorgiaなどは体内に枝分かれをした管系が存在する。体内に栄養や酸素等を供給するための構造と解釈されるが、これは多細胞動物に限らず巨視的な生物には様々な形で備わった形質である。これまで、多細胞動物における器官と対応するような構造は見いだされていない。 以上の点からすれば、エディアカラ化石生物群には多細胞動物の祖先は含まれていないというのが結論となる。
|