研究概要 |
有孔虫骨格の安定同位体を用いた高精度な古水温計確立のため、浮遊性有孔虫の同位体非平衡値(vital effect)を知ることは重要である。本年は、各種浮遊性有孔虫の酸素同位体比とそれの生息していた海水の酸素同位体比との非平衡値を見積もるべく、KT06-11航海で北西太平洋から得られた水深100m以浅の試料中の代表的な5種(G.ruber,G.sacculifer,G.aequilateralis,P.obliquiloculata,N.dutertrei)について酸素同位体比分析の分析を行った。 各水深における上記5種の浮遊性有孔虫の酸素同位体比は、周囲の海水の酸素同位体比よりも値が小さく、すべて軽い値を示すことが明らかとなった。それぞれの種の取りうる非平衡値の幅は、0.5-1.4‰の幅を持っていた。これまでに公表されている大西洋での種の非平衡値と比較すると、とくにG.aequilateralisとN.dutertreiでそれぞれ約0.5‰、0.3‰ぶんの酸素同位体比が小さい傾向が見られた。このことより、浮遊性有孔虫の酸素同位体非平衡値は海域によって異なる可能性がある。また、この酸素同位体比と採取した水温とを比較すると、両者の問にほぼ直線的な関係が得られたことから、浮遊性有孔虫の酸素同位体比は骨格を形成した水温情報を反映しているといえる。来年度はそれぞれの浮遊性有孔虫の微量元素であるMg/Caを測定し、北西太平洋における水温換算式を確立すべく研究を行う予定である。
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