Re-Os系の海洋堆積物への適用は、物質移動に関する情報に留まらず、古海洋環境についても有益な情報が得られると考えられている。しかし、海水-堆積物系におけるReとOsの分別素過程に関しては充分な理解がなされていない。この点に着目し、本研究では、異なる酸化還元条件下において海水-堆積物間でのReとOsの取り込みを実験的に調べ、以下の結果が得られた。 還元作用の進行に伴い堆積物によるReの取り込みが見られたが、酸化的な実験系では堆積物によるReの取り込みは起こらなかった。この結果から海水中のRe(ReO_4^-)は還元されることにより堆積物に分配され易くなると考えられる。一方、Osは様々な酸化還元条件の堆積物に対してReより顕著な取り込みがみられた。XANESの結果から、Osが酸化的な堆積物中では+4価、還元的な堆積物中では+3価になると推定された。本研究により、酸化還元条件の異なる海洋堆積物・堆積岩等の^<187>Re/^<188>Os比変動は堆積物によりReが取り込まれるか否かによって支配されていることが明らかとなった。強還元環境では堆積物へのReの分配が大きくなり、より大きな^<187>Re/^<188>Os比が達成される。これらの成果は、海洋でのReおよびOsの挙動、Re/Os比の分別、様々な海洋関連試料での^<187>Os/^<188>Os比の変動、などを理解する上で非常に重要な成果である。 さらに、放射性起源のOsの化学的挙動を解明するために、モリブデナイト(硫化モリブデン)においてReから放射壊変したOsの局所構造をXAFSから検討した。OsはモリブデナイトにおいてMoサイトを占めているが、Os-Sの原子間距離はMo-SやRe-Sの距離よりも短いことが分かった。また、Os(IV)とともにOs(III)も存在していることも示された。この局所構造は、モリブデナイトでOsの拡散がReよりも大きいことを示唆するとともに、放射性起源と初生的なOsが、風化作用等の固相-液相反応において異なる挙動を示す可能性を示唆する重要な結果である。
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