研究概要 |
研究計画初年度となる本年度は,誘導結合プラズマ(ICP)支援スパッタ装置を用いて化学量論比の二酸化バナジウム(VO_2)薄膜の堆積を進め,並行してVO_2薄膜をべースとする素子の電界誘起相転移並びにスイッチング現象の検証を行った。 内部コイル型ICP支援スパッタ装置によるVO_2薄膜の成膜では,従来の反応性スパッタ法では困難であった化学量論比VO_2の堆積条件を詳細に調べた.その結果,60〜70℃の温度域で高抵抗から低抵抗へと3桁の抵抗変化,いわゆる金属-絶縁体相転移を示すVO_2薄膜を,サファイア基板上へ200℃の低温で堆積することができた.低温基板への堆積は,デバイス応用を図る上で必須となる重要事項である. サファイア基板上に成長したVO_2薄膜上にAl電極を設けた2端子プレーナ型素子は,電極間隔に対応する電圧において電流ジャンプ,即ち電界誘起相転移を示すことが明らかとなった.電極間隔を0.1mmとした場合,10V程度の電圧で電流ジャンプが生じ,高抵抗から低抵抗へと転移した.更に,低抵抗に転移した後は低抵抗状態を維持して電圧-電流特性が推移することから,本素子は双安定な抵抗状態を有する抵抗性スイッチングメモリーの機能を有するものであることが判明した.本素子に50Hzの交流電圧を印加したところ,正負両極性において対称なスイッチング動作を示し,その動作は極めて安定であった. 一方,上記のプレーナ型デバイスにおいて,非転移の状態においてVO_2薄膜を流れる電流値が過大である場合には温度上昇による相転移を生じるために,安定なスイッチング動作を得ることはできなかった.電界印加による相転移をX線回折法によって調べた結果,転移に伴う電流値を低く抑えた場合は結晶構造転移を伴わない可能性が示唆された.即ち,素子寸法等から決まるVO_2薄膜中の動作電流値を低い値にコントロールすることで,電界による相転移のスイッチングが可能となることが明らかになった.動作電流値の制御には,VO_2薄膜の初期抵抗値が大きいことが求められ,今後良好な結晶成長を実現することが必要である.その上で,熱的な挙動に注目して素子構造の検討や,スイッチング特性の評価を進めていく必要がある.
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