Dirac方程式の解である1電子波動関数は、4つの成分をもち、4成分スピノールと呼ばれる。4つの成分のうち、最初の2成分を大成分、残りの2成分を小成分という。小成分を求めるためには、大成分を求める場合と比較して、より複雑な計算を必要とする。そこで、本研究では、小成分を消去し、大成分のみを求める2成分方程式を用いて、NMRの核磁気遮蔽テンソルの計算を行った。重原子を含む分子のNMR遮蔽テンソルには、相対論的効果の寄与が大きいことが知られている。本研究では、小成分を(演算子)×(大成分)の形で表すことによって小成分を消去する小成分消去法(NESC法))を用いた。通常のc^<-4>オーダー(cは光の速度)の相対論的効果を無視する方法では、計算値は不十分なものとなった。そこで、c^<-4>のオーダーの相対論的効果を加えたところ、発散的な項が現れ、計算値は非現実的な値となった。原子核を点電荷ではなく広がりをもった有限核と考えて、c^<-4>オーダーの相対論的効果を含めた計算を行ったところ、計算値は著しく改善された。結果はアメリカ物理学会誌J. Chem. Phys. に掲載された。
|