分子の吸着構造、位置、分布を観測できる走査型トンネル顕微鏡(STM)、赤外分光装置(FTIR)、気体分子の運動エネルギーを制御できる分子線(MB)作成装置を組み合わせた実験装置を用いて、表面反応において特に重要であると考えられる表面過程におけるエネルギー散逸を明らかにし、さらにエネルギー散逸を制御することにより表面過程の制御を行うことを目的に、固体表面に、運動エネルギー(並進エネルギーおよび振動エネルギー)を制御した分子を衝突させることにより、過渡的拡散過程を明らかにした。 52Kに保った清浄なPt(997)表面に被覆率約0.03のCOを吸着させた時に測定したFTIRスペクトルにおいて2090cm^<-1>、および2070cm^<-1>に観測されるピークは、terrace位置のon-top site CO (terraceCO)、およびstep位置のon-top site CO (stepCO)と同定される。この表面に約0.3eVの運動エネルギーを持ったNe原子を照射してもスペクトルにはほとんど変化は見られない。ところが約0.9eVのNe原子を照射するとterraceCOに起因するピークが減少し、同時にstepCOに起因するピークは増加する。照射量が1.3x10^<17>個/cm^2では、terraceCOが消失しstepCOのみが観測される。このことからNeの運動エネルギーが0.9eVの場合、Neとの衝突によりterraceCOの過渡的拡散を起こしてstepに移動したことがわかった。その表面に0.86eVのエネルギーを持つAr原子をstepの下側から照射していくと、Ar原子照射とともにstepCOに起因するピークが減少し、同時にbridge site COに起因するピークが出現し強度が増加した。この様子を観測することによりstepCO拡散の活性化エネルギーを見積もることができた。
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