研究概要 |
本研究では,気相の分子集合体(気相クラスター)を利用して,電子や短寿命の原子価負イオンの周囲に人工的な溶媒和環境を調製し,それらの安定性・構造・ダイナミクスを調べることによって「溶媒和による安定化の微視的理解」を目指して,以下の研究を実施した. 1.ヘテロな溶媒環境をもつ溶媒和電子の構造:ビーム・エントレインメント法と質量分析法,画像観測型負イオン光電子分光法を併用し,(H_2O)_n-がD_2O,CH_30H,(CH_3)_2COを取り込んだ際に形成される水素結合ネットワーク構造を調べた.その結果,D_2O,CH_3OHを取り込んだ場合には,電子-水素結合(e…H-O)を保持しながら,水素結合ネットワークの劇的な構造転移が起こることを明らかにした.この成果は,溶媒和電子の安定化に対するエントレーナー(共溶媒)効果の分子論的描像を与えるものである. 2.ヘテロ溶媒和による原子価負イオンの安定化メカニズムの解明:赤外光解離分光法を用いて,CO_2とCH_3OHで構成された混合クラスター負イオンの2700-3700cm^<-1>における振動構造を調べ,CO_2-およびC_2O_4-をイオン芯とする2つの電子構造異性体のうち,ヘテロ溶媒和によって前者が選択的に安定化されることを見出した.さらに高精度ab initio計算を併用して溶媒和構造を推定し,CH_3OHによる短寿命原子価負イオンCO_2-の安定化メカニズムが,H_2Oの場合とは異なることを明らかにした.これらの成果は,プロトン性分子の「溶媒和による短寿命原子価負イオンの安定化」に関するモデルの構築に繋がる.
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