研究概要 |
本研究は,気相の分子集合体(気相クラスター)を利用して,電子や短寿命の原子価負イオンの周囲に人工的な溶媒和環境を調製し,(1)ヘテロ溶媒和環境をもつ水和電子の生成・構造・ダイナミクス,(2)プロトン性分子を含むヘテロ溶媒和による原子価負イオンの安定化メカニズムを明らかにすることによって,溶媒効果に関する分子論的描像を得ることを目的とした. 1.分子の取り込みによる(H_2O)_n^-の水素結合ネットワーク構造転移:ビーム・エントレインメント法と光電子イメッジング分光法を併用し,水和電子クラスター(H_2O)_n^-がプロトン性分子を取り込む際に,電子-水素結合{e^-}…HOを保持したまま,水素結合ネットワークの劇的な構造転移が起こることを明らかにした. 2.Dual dipole-bound状態の生成と原子価負イオンへの光変換:極性分子と水素結合ネットワークがそれぞれの双極子モーメントによって空間に広がった電子を束縛している新規なdual dipole-bound状態を生成し,それが原子価負イオンの前駆体となることを示した. 3.共溶媒系[(CO_2)_n(ROH)_m]^-(R=H, CH_3)の幾何構造・電子構造の解明:赤外光解離分光法と高精度ab initio計算を併用して[(CO_2)_n(ROH)_m]^-の溶媒和構造を調べ,プロトン性共溶媒分子による水素結合を介した短寿命原子価負イオンCO_2^-の安定化メカニズムを明らかにした. 4.複数の双極子場による原子価負イオンの安定化:光電子イメッジング分光法を用いて(CH_3)_2CO, H_2Oを含む混合クラスター負イオンの電子構造を調べ,新規な負イオン安定化メカニズムとして「複数の双極子場によって安定化された原子価負イオン(valence anion stabilized by surrounding multi-dipoles)」が形成されることを見出した.
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