本年度は主としてBZ-AOT系に関する既存の反応拡散モデルの妥当性を検討した。BZ-AOT系とはビス(2-エチルヘキシル)スルホ琥珀酸ナトリウム(AOT)を界面活性剤として使用した逆ミセル内部を、Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応の反応場とした系である。下記のキャラクタリゼーションの結果、BZ試薬が逆ミセルの物質交換特性を変化させるため、ブランク系(BZ試薬を含まない系)の物性値を使用していた従来の解析結果の再検討が必要であることが明らかとなった。 (1)電気伝導率測定において、BZ-AOT系のパーコレーション(急激な電気伝導率の上昇)開始点はブランク系と比較して高体積分率側ヘシフトしたことから、BZ試薬はAOT単分子膜を通じた物質交換頻度を抑制することがわかった。パーコレーションモデルに基づいた解析の結果、ブランク系同様、BZ-AOT系においても電荷担体の物質交換に関する支配的な機構は、低体積分率側では動的な、高体積分率側では静的なパーコレーションであることがわかった。しかし、電気伝導率の絶対値は数倍〜数十倍異なることから、イオン種の移動産は二つの系で大きく異なる。このことから、反応拡散モデルを用いる際は、BZ-AOT系そのものの物性値を使用する必要性が明確となった。 (2)BZ-AOT系で形成される空間パターンを観察・記録するため、顕微鏡の温度制御環境を整備した。また、物質移動の指標として、系に含まれる化学種の拡散係数を測定する目的で、磁場勾配NMR法の測定環境を整備した。 (3)反応拡散モデルに基づく空間パターンシミュレーションの考察過程で、3次元パーコレーションモデルのスケーリング則を検証する必要性が生じたため、新規にプログラムを開発して検討を行っている。
|