研究概要 |
ペプチド分子ミクロ水和クラスターである,N,N-ジメチルアセトアミド-水錯体の純回転スペクトルの解析をさらに進め,水分子が配位することによりN,N-ジメチルアセトアミドの3つのメチル基全てで内部回転障壁が低くなるということを実験的に明らかにした。このことは,ペプチド鎖からなるタンパク質の高次構造形成において,水分子が糊の役割だけではなくペプチド鎖の柔軟さを助長していることを意味している。また,やはり生体分子のモデルとされる乳酸メチルの水錯体の観測を行い,3種類の1:1錯体の帰属と解析を行った。乳酸メチルの構造は,ねじれに対しする柔軟性を持っているが,分子内水素結合を形成することで安定化する。観測した錯体のうち,二つは,その分子内水素結合の間に入り込んで環状の水素結合ネットワークを形成し,乳酸メチル自体の構造を大きく変化させるものであった。この二つの挿入型錯体は,乳酸メチルが分子キラリティを持つために生じる異性体であり,分子キラル認識のメカニズムの理解につながる。残りの一つは乳酸メチルの分子内水素結合を保持したまま水分子が単純に付加するタイプであることがわかった。観測された各錯体の強度比と量子化学計算によるエネルギーの考察により,挿入型錯体の形成には,活性化エネルギーが必要であることがわかった。更に本研究で目指す重要な生体関連分子のひとつである,アミノ酸類のミクロ水和クラスターのスペクトル観測を可能にするために必要とされる,新たなタイプのノズルを開発するための予備実験を行った。
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