本研究においては次の5つのプロジェクトを行った。 (1)ぺり環状反応の遷移状態における芳香族性 ポリエンの電子環状反応、電子環状付加反応、およびシグマトロピー転移反応の遷移状態の芳香族性の尺度を我々が先に提案した芳香族性指数IDAにおいて比較を行った。同種の反応に関しては芳香族性と活性化エネルギーの間に相関性があることを見いだした。 (2)電子環状付加反応機構 Diels-Alder反応の協奏反応機構と段階反応機構に対し親ジエンの影響によりこれらの機構が大きく左右されることを見いだした。 (3)シグマトロピー転移反応機構 クライゼン反応機構に関しこの反応機構が等電子移動機構ではなくヘテロ電子移動機構で起こり、かつ対称的な反応ではなく非対称な反応機構で起こることを明らかにした。 (4)ぺり環状反応と擬ペリ環状反応 ペリ環状反応機構と擬ペリ反応機構の違いを反応径路に沿った電位移動の観点から我々の電子解析法であるCiLC-IRC法を用いて調べた。この結果儀ペリ環状反応は先に提案されているような機構から大きく異なっていることを見いだした。 (5)グループ移動反応機構 グループ移動反応の一つであるエン反応機構に関しその反応径路について調べた。その結果現在までエン反応は協奏的反応機構で起こると考えられていたが、途中にバイラジカル中間体を経る段階型反応機構で起こることを見いだした。また、協奏型反応機構で起こる場合においても電子の動的過程から段階型反応機構様のメカニズムで起っていることを明らかにした。 (6)溶媒中における分子動力学方法の開発 大規模溶媒中における高精度分子軌道計算法であるIMiC MO法の改良を行った。特に今回、共有メモリー型計算機上における並列処理への対応を行った。
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