研究概要 |
まず,広範囲の環状共役系に対して,環電流による反磁性磁化率から誘導した芳香族安定化エネルギー(磁気的共鳴エネルギー)がトポロジー的共鳴エネルギーとの間に良好な相関が認められた。この発見は,芳香族性が一義的に定義できることを決定的に示す証拠となり,芳香族性がその推定方法に依存する多次元の量であるとする従来の説を退ける有力な材料となる。なお,環電流による反磁性磁化率自体はトポロジー的共鳴エネルギーとの間によい相関は認められない。 次いで,相原が定義した結合共鳴エネルギーがHOMA指数(結合交替を指数化したもの)などと良好な相関があることから,結合共鳴エネルギーを局所的芳香族性指数として利用できることを見出した。また,3角形の面の組み合わせからなる球殻状金クラスターでは,球面の自由電子モデルがよく成り立ち,クラスター内の最小の結合共鳴エネルギーがそのクラスターの速度論的安定性を的確に表現することを示した。結合共鳴エネルギーが,環電流による反磁性磁化率から誘導したサーキット共鳴エネルギーを用いて近似的に求められることもわかった。このサーキット共鳴エネルギーの総和が磁気的共鳴エネルギーである。 さらに,ポリアセン分子の2,3位にメチレン基をもつポリアセン-2,3-キノドジメタイド類のような,古典的な共鳴構造式が1つしか書けない炭化水素でも,大きな同族体になると,大きな芳香族性と反磁性環電流を発現することを見出した。このことは,大きな半ベンゼン系炭化水素では,非共役サーキットが芳香族性や環電流の誘起に大きな寄与をすることを意味する。
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