研究概要 |
まず、ケクレンのような大環状共役系(macrocyclic π-system)に対して、π電子が大環状構造を巡ることにより余分の安定化を生じるかどうかの目安となる超芳香族安定化エネルギー(superaromatic stabilization energy, SSE)を、環電流磁化率の各サーキットからの寄与から計算する方法を提案した。これにより、われわれが提唱してきた磁気的共鳴エネルギーの概念を大環状共役系に適用することが極めて容易になった。 ポルフィリン化学では、ポルフィリン分子の芳香族性に大きな寄与をすると考えられる大環状サーキットを主大環状共役経路(main macrocyclic conjugation pathway)とよんでいる。われわれは、相対的に大きな結合共鳴エネルギー(bond resonance energy, BRE)をもつπ結合をたどることによりこの主大環状共役経路を容易に推定できることを見出した。昨年度はメビウス型拡張ポルフィリンが多数合成されたので、同じ方法をこれらの分子を適用し、その大環状構造の芳香族性および環電流の分布を説明することができた。しかし、一般のポルフィリン分子の芳香族性は、これまでの通説に反して、大環状サーキットからより、個々のピロール環からの寄与が遥かに大きいことが分かった。 これとは別に、p-ポリフェニル-α,ω-キノドジメタイド(p-polyphenyl-α,ω-quinododimethide)類が、複数の共鳴構造が描けないにもかかわらず、比較的大きな芳香族性をもち、比較的大きな反磁性環電流を誘起することを発見した。これは、前年度報告したポリアセン-2,3-キノドジメタイドの場合と同様で、多数のキノイド型6員環が芳香族性や反磁性にかなり大きな寄与をすることを意味する。
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