本研究では、燃焼化学ならびに大気化学において重要な役割を果たす励起酸素原子O(^1D)原子の反応について、励起状態の反応への寄与を明らかにする目的で、超低速のO(^1D)原子を生成して、その反応の生成物の振動回転分布を詳細に測定した。ここで言う励起状態とはO(^1D)と反応分子の系の励起状態のことで、挿入型の反応が主で活性化障壁もなく大きな反応断面積をもつ基底状態に対して、引き抜き的な反応のため活性化障壁が存在する。超低速のO(^1D)原子を得るために、本研究ではオゾンO_3の紫外光吸収の長波長端近くの波長でO_3を光励起し、その光解離生成物のO(^1D)原子の反応動力学を研究した。研究期間を通じて、この研究目的のためにO_3を用いた化学反応実験に適した実験装置として作成したガラス製の小型真空装置を用いて、O_3の3O8nm紫外光励起で生成した超低速O(^1D)原子とHCI、H_2O、N_2O、炭化水素分子との反応によって生成するOH分子をレーザー誘起蛍光法により検出して、その振動回転分布を測定している。この実験を通してO_3量の安定化、シグナル強度の向上などの最適化のために装置に改良を加え、良好な結果を得た。これまでの予備的な結果としては、超低速のO(^1D)原子の反応と高速のO(^1D)原子の反応生成物の振動回転分布の差が顕著ではなく、高速のO(^1D)原子の反応において励起状態の寄与が小さいことが示唆されている。
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