研究概要 |
本研究では、複素環内に高周期14,15,16族元素を導入した有機分子群を合成し、その構造、多電子酸化還元挙動を明らかにするとともに、一分子内に複数の孤立電子を持つ常磁性化学種を形成させ、その分子間、分子内におけるスピン相互作用の本質を解明し、混合原子価状態における可逆多電子移動を利用した新規な電子デバイス分子群の開発を行おうとするものである。高周期14,15,16族ヘテロ原子特有の最外殻電子の容易な授受による酸化還元活性の向上、および多電子移動過程の可逆性の向上、混合原子価状態の安定形成により、電子状態を自在にプローブが可能となる。本研究計画を実施するにあたり、専門を異にする研究者が有機的連携をはかり、研究代表者の小川が主として合成に携わり、分担者の木村が構造解析を行い、その後、分担者の吉本が物性評価を実施した。 平成18年度は、標的分子群の一群であるベンゼン縮合型含フェロセン複素環分子群を,平成19年度は、標的分子群の一群であるチオフェン骨格に複数のフェロセンを導入した多置換チオフェン誘導体の高効率合成を実現するため、独自開発した経路での合成を小川が担当し、達成した。それらの化合物の構造決定は、木村が担当し、融点、赤外吸収スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、核磁気共鳴、質量分析、元素分析、およびX線構造解析により実施した。さらに、その混合原子価状態における電気化学的特性を評価するため、吉本が担当し、サイクリックボルタンメトリーおよび電子スピン共鳴の測定を行った。その結果、目的の多段階酸化還元特性の発現が確認され、混合原子価状態を経由する分子系の創製が実現した。得られた新規な知見は、研究発表欄に記載した論文等で発表した。
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