本研究は、触媒的不斉プロトン化反応において、人工的にプロトンの位置および反応性を制御し、高い光学純度で有機化合物を作り分けることができるようなキラルプロトン源の開発を目的とする。当該研究期間内はキラルルイス酸触媒を基盤とするプロトンメディエーター能力を有する新規不斉配位子(触媒)の開発について重点的に研究を行った。これまでの研究において、BINAP・AgF触媒がメタノールによるシリルエノラート化合物の触媒的不斉プロトン化反応で有効なキラル触媒であることを見出していることから、さらに関連するキラルホスフィン配位子について検討したところ、p-Tol-BINAPがBINAPより高いエナンチオ選択性を提供できる不斉配位子であることを突き止めた。さらにこの不斉配位子とAgFから形成される錯体を触媒に用いたところ、環状ケトンのみならず鎖状ケトンから誘導したシリルエノラートについても、高いエナンチオ選択性がみられることがわかった。また、薬理活性を有するα-アリールカルボン酸類の触媒的不斉合成を念頭に置き、抗炎症剤であるイブプロフェンやナプロキセンのエステルやアミド体のケテンシリルアセタールを基質に用い、上記不斉プロトン化反応について種々検討した結果、30%eeの不斉誘導が観測された。一方、オリゴペプチドを基盤とする有機プロトンメディエーター触媒の探索研究において、既に予備的知見の得られているアスパラギン酸とフェニルアラニンから成るジペプチドをキラル触媒に用い、嵩高いフェノールをアキラルプロトン源として、様々な環状ケトンのリチウムエノラートの不斉プロトン化反応について検討した結果、最高で88%eeの不斉誘導が生じることがわかった。
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