研究概要 |
1,3-ジエニルスルホンにアミンの求核付加反応を行なったところ,非環状の第二級アミンを用い,THFなどの立体障害が比較的小さく極性の高いエーテル系の溶媒中で反応を行なうと,立体化学的には不利と考えられる(Z)-アリルスルホンが優先して得られることを見出した。アミンの濃度が低いほど,また,大変興味深いことに温度が高いほど,Z選択性が高くなることを明らかにした。この現象は,アミンが1,3-ジエニルスルホンのδ位を攻撃してγ位に電子を供給するとき,syn型遷移状態の安定性の違い("シン効果"),即ち,γ-炭素上に生じるn電子対とC_α=C_βのπ^*軌道との間のn→π^*相互作用および,γ位のC-H結合のσ軌道とC_α=C_βのπ^*軌道との間のσ_<C-H>→π^*相互作用に基づいて説明できることを示した。電子求引基としてスルホンに換え,エステルを有する(E)-2,4-ペンタジエン酸エチルの場合にも,立体化学的には不利と考えられる(Z)-5-アミノ-3-ペンテン酸エチルが優先して得られることを見出した。 一方,酸素官能基を有する基質の異性化反応では,"シン効果"が強く作用し,極めてZ選択性が高い。そこで,得られたZ-ビニルエーテルから[1,2]Wittig転位を行ない新たな炭素炭素結合反応を試みたところ,δ位の置換基がBnO基(Bn=PhCH_2)のビニルオキシランおよびアリル型スルホンに過剰量の塩基を作用させたところ,1,4-脱離型反応に引続き[1,2]Wittig転位が進行し,対応するZ,E体のジエニルアルコールを立体選択的に得ることができた。
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