研究概要 |
γ-位にイオウ置換基を持つラクタムを水溶液中で様々なLewis酸と処理したところ,極めて興味深い脱硫反応がおこり,さらには開環反応を伴わずに高収率かつ位置選択的にヒドロキシル化反応が進行し,tandem型脱硫-ヒドロキシル化生成物が得られることを見出した。そこで2年目の本年度は,この異常現象の解明と,明らかにされた反応を利用した生理活性物質の全合成のための基礎研究を検討することとした。これまでに明らかになった事柄は次の通りである。 (1)脱硫-ヒドロキシル化反応を起こさせるにあたり,ラクタムのγ-位におけるアルキル置換基の有無を含めて,どのような構造,官能基,および置換基を持つものまで対応可能か調査の結果,脂環式あるいは芳香族系とも問題なく反応が進行し,官能基の有無についても,その反応性に大きな影響を与えなかった。特に立体障害の大きい4級の炭素につくイオウ置換基であっても,極めて迅速に進行することが分かった。 (2)ルイス酸は銅塩(1価,2価とも)がもっとも有効な試薬であることが分かった。これ以外では極端な収率低下が認められた。 (3)ルイス酸に配位可能なchiral auxiliary(or catalyst)を導入し,様々の条件下における不斉化反応の模索を検討したが,残念ながら量論を含めて期待した立体選択性は得られず,22%ee程度に終始した。この結果に対する明確な理論付けができずに現在に至っている。本反応の一般性は認められたものの,これまで考えられていた機構では進行していない可能性があることが示唆された。したがって,最終年度はこの点から再検討を始めたい。
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