研究概要 |
研究初年度である19年度は、プロキラリティーを持たない小さな陰イオン種のプロキラルな親電子剤への求核付加反応において、反応性及び立体化学の制御を相間移動条件下で実現するための機能性キラルアンモニウム塩の創製に焦点を絞って研究を遂行した。 [1]相間移動触媒作用を利用する二相系でのシアノ化反応そのものが知られていなかったため、まず代表的アキラルアンモニウム塩としてテトラブチルアンモニウムプロミドを用い、その触媒作用の発現に理想的な反応系を構築したと具体的にはアルジミンを基質とし、1)水相となるKCN水溶液の濃度、2)有機溶媒の選定及び水相に対する体積比、3)イミン窒素上の置換基が反応性・選択性に与える影響等について精査し、2M KCN水溶液-トルエンからなる液一液二相系、0℃という極めて穏和な条件下で速やかに反応が完結し、76%の収率で付加体を与える条件を見出した。さらに得られた条件下、新規構造概念に基づくキラルアンモニウム塩の設計による反応の不斉化に取り組んだ。すなわち、ビナフチル骨格の3,3'-位に、オルト位にアリール置換基を持つフェニル基を導入したキラルユニットを有するアミンを、水相からのシアン化物イオンの抽出効率を考慮したジメチルアンモニウム塩として利用し、最高98%eeの選択性を獲得することに成功した。本分子設計の鍵はオルト位のアリール置換基の存在にあるが、設計段階では3,3'-位のビアリール軸まわりの自由回転の阻害による三種類のジアステレオマーが考えられた。しかし実際に最適化した合成条件下において、ビアリール置換基が中心窒素陽イオンまわりにビナフチル骨格とは直交した形で対称に張り出す構造を持つジアステレオマーが優先して得られ、シアン化物イオンの位置を定めるとともに、プロキラルなアルジミンの認識ポケットを効果的に形成する触媒の創製に成功した。
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