我々は、新世代の炭素ナノマテリアルの重要な基幹材料として不可欠のフラーレン、とりわけ従来の製造法では微少量しか得られない内包フラーレンを効率的に人工合成する技術を確立したが、本研究では特に水素および重水素内包フラーレンについて新素材としての物性開発を目指して研究を行ない、下記の結果を得た。 1、内句フラーレンH_2@C_<60>の合成 我々が先に見出した分子手術法を用いる有機合成手法により、水素分子を内包したフラーレンH_2@C_<60>の合成を行なった。 2、H_2@C_<60>のアルカリ金属ドーピングによる超伝導発現 東北大学との共同研究によって、H_2@C_<60>を金属カリウムでドーピングしてK3・H2@C_<60>を合成した。これの比熱測定を行ない、また超伝導転移温度を求めたところ、Tc=19.2Kという値が得られ、これは中空のC_<60>を用いて測定した値と変わらないことが明らかとなった。 3、水素および内句水素分子のスピン-格子緩和 各種溶媒中でのフリーの水素分子とフラーレンに内包された水素分子のスピン-格子緩和時間に対する溶媒、温度の影響を検討した。 4、一重項酸素の水素および重水素によるクエンチ フラーレンに内包された水素分子および重水素分子ならびにフリーの水素分子の、励起一重項酸素に対するクエンチ効果をフラーレン骨格をレーザー励起することにより検討した結果、フラーレン骨格の存在が大きなクエンチング効果をもたらすことが明らかとなった。なお、上記項目3および4は、コロンビア大学との共同研究として行なった。
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