研究概要 |
本年度は,ビシクロ型カゴ状分子の合成研究をさらに進め,前年度に明らかになった問題点のいくつかを解決することができた.まず,橋頭位のケイ素上のアルキル基をイソブチル基にすることで,種々の条件下でのケイ素-チオフェン環炭素結合の切断をほぼ抑えることができた.また,チオフェン環の一部にn-ブチル基を導入することで生成物の溶解度を向上させ,精製を容易にすることができた.その結果,トリス(5'-エチニル-3',4'-ジブチル-[2,2']-ビチエニル)イソブチルシランを好収率で合成できるようになり,Pd触媒による酸化的ホモカップリングを行って,ジアセチレンで架橋されたカゴ型分子を得た.GPCによる精製ののち,1H-および13C-NMRスペクトルならびにMALDI-TOFマススペクトルによって同定を行った.クロロホルム-エーテルから再結晶を行い,単結晶を得たのでX線結晶構造解析を行い,分子構造を明らかにすることができた.ディスオーダーが大きいため,構造の詳細な議論は出来ないが,分子が結晶学的にC3対称を有していることは注目に値する.また空孔内には溶媒分子などは存在せず,隣接する分子のブチル基が入り込むことで空間を埋めていることもわかった.可視-紫外吸収スペクトルにおいては非カゴ型前駆体と比較して目立った長波長シフトは観測されなかったものの,吸光係数の顕著な増大が見られた.さらに蛍光スペクトルにおいては通常のチオフェン系化合物よりも明らかな発光強度の増大が観測され,ケイ素架橋カゴ型分子の構造的特徴を反映する結果を得た.
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