研究課題
ペンタセンに代表されるアセン類は、代表的なp型有機半導体であるが、通常の溶媒に難溶であるためデバイス作製には真空蒸着を必要とする。我々は溶液プロセスによるデバイス作製を可能にするため、光により変換可能なアセン類の可溶性前駆体を設計した。これまでにペンタセンのジケトン前駆体を合成し、光照射によりほぼ定量的にペンタセンに変換することに成功した。この手法で得られた有機電界効果トランジスタは0.34cm^2/Vsの電荷移動度を示した。しかし得られたペンタセンは、光照射により酸素付加体が生じやすく空気中では不安定であった。また、ジケトン前駆体とペンタセンの吸収スペクトルが一部重なっているため、フィルム中での反応では、反応後半にペンタセンのフィルター効果によってジケトンの光反応が阻害されるという欠点があった。今回我々は、酸素に安定な有機半導体として、長鎖アルキル基を有するチオフェン連結アントラセン誘導体やピレン連結アントラセンのジケトン前駆体の合成を行い、その光反応性について検討した。ピレン連結アントラセンのジケトン前駆体では、高効率でピレン部分からジケトン部分への一重項エネルギー移動が起こり、ピレン部分を励起した際にも3%の量子収率で光反応が進行することを明らかにした。またモノアンスラポルフィリンのジケトン前駆体を合成し、フリーベース体ではポルフィリンのSoret体を励起した際にも光反応が進行することを明らかにした。またPd錯体ではSoret帯に加えQ帯を励起した際にも光反応が進行した。過渡吸収スペクトルや蛍光寿命、蛍光量子収率の測定により、光反応はエネルギー移動や電子移動を経由することなく、ポルフィリン自体を励起することで進行することを明らかにした。
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