本研究では、架橋芳香族化合物に関する研究の一環として、既存のヘリセン骨格からo-ターフェニル骨格部分を抽出し簡略化したベンゾ[2.2]メタシクロファン骨格を構成単位とするらせん型分子に着目し、これらの実用的な一般性の高い合成法を開発し、シクロファン骨格に基づく相互作用、光化学的特性を解明することを目的とするものである。本年度は以下の研究実績を上げることができた。 1.合成ルートの開発 本申請者が本研究に着手する以前にメタシクロファン系化合物合成の際に開発した低原子価チタンを用いるマクマリー分子内カップリング反応を行い、1.2-ジメチル[2.n]メタシクロファン-1-エン類の簡便な合成法の開発に成功した。さらに、本研究により、臭素化、亜鉛による脱臭素化することにより、1.2-ジメチレン[2.n]メタシクロファン-1-エン類へと変換し、次いで、Diels-Alder反応、酸化反応を行うことにより、ベンゾメタシクロファンが合成出来たことは特筆すべき成果であろう。本手法は1.2-ジメチレン体と様々なジエノフィルとのDiels-Alder反応にも応用出来、一般性の高いらせん構造を持つアレノシクロファン誘導体の合成法の開発に成功している。 2.構造・物性に関する研究 合成したベンゾ[2.n]メタシクロファンは分子不斉を持っており、ラセミ体混合物として得られる。そこで、光学分割の可能性の有無をキラルカラムHPLCを用い、評価した。その結果を基に実際に光学分割に成功した。次に、光学分割した各鏡像異性体の熱によるラセミ化反応を行い、ラセミ化速度と架橋鎖nとの関係を系統的に調べた。内部置換基導入によるラセミ化の進行が抑制され、特に架橋鎖nが小さい場合には、完全抑制されることを実験的に実証することが出来た。本ラセミ化はベンゾ[2.n]メタシクロファンのベンゼン環の反転に起因しているので、温度可変^1H NMR測定を行い、熱によるラセミ化実験結果と比較する。各鏡像異性体の比旋光度を測定し、架橋鎖とくおよび置換基による影響を系統的に調べた。本結果はシクロファンを基体とするヘリセン型分子の分子設計指針を示す興味深い結果といえる。
|