研究概要 |
18年度に反応速度測定に適した金属ジチゾナートと溶媒の組み合わせを精査した結果,亜鉛ジチゾナートとmethyl acetate(非プロトン性極性溶媒),methylcyclohexane(無極性溶媒)の組み合わせが安定に再現性よく測定できることを見いだした。それを受けて19年度は,上記溶媒と対応する高圧で著しく粘性の増加するglycerol triacetate,2,4-dicyclohexyl-2-methylpentane中でのフォトクロミズムに伴う構造変化の反応速度定数の圧力および粘度依存性を調べた。測定は,圧力に関しては0.1〜600MPaの範囲内で30MPaごとに,温度は15〜45℃の範囲内で10℃ごとに行った。低粘性溶媒(methyl acetateおよびmethylcyclohexane)中では,圧力増加とともに活性化体積の効果によると考えられる,わずかな反応抑制が観測された。一方,高粘性溶媒中では圧力の増加とともに著しい反応抑制が観測された。これは圧力増加とともに溶媒の粘性が増加したことにより,基質の構造変化が妨げられた,すなわち動的溶媒効果によると考えられる。そこで動的溶媒効果の理論モデルによる解析を試みたところ,Kramersらの提唱するモデル(一次元反応座標モデル)ではなく,Agmon, Hopfieldらの提唱するモデル(二次元反応座標モデル)によって解析する方が妥当であることが分かった。 Pdを中心金属にもつパラジウムジチゾナートについても同様の測定を試みているが,反応速度定数の再現性が極めて悪いため困難を極めている。一方で,パラジウムジチゾナートの触媒反応への応用を検討したところ,特定の反応基質の組み合わせに限られるが,Mizoroki-Heck反応において,従来の触媒よりも優れた触媒活性を示すことを見いだした。
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