研究概要 |
19年度までに,亜鉛ジチゾナートのフォトクロミズムに伴う配位子構造変化の速度定数が,溶媒粘度の増加に伴って反応速度抑制,すなわち動的溶媒効果を示すことを見いだした。さらにこの系における動的溶媒効果が,反応基質の構造変化と溶媒和構造変化を1つの反応座標で表す理論モデル(一次元反応座標モデル)ではなく,反応基質の構造変化と溶媒和構造変化を独立した座標で表す理論モデル(二次元反応座標モデル)によって解析する方が妥当であることも確認したが,20年度はさらに二次元反応座標モデルによる解析を進めた。その結果,溶媒和構造の変化に伴って,反応基質の構造変化が起こる,言い換えれば,2つの座標が完全に独立しているのではなく,互いにかなり連動していることを見いだした。また粘性の高いglycerol triacetate中では,常圧においても動的溶媒効果が現れており,これは配位子の嵩高さ故に,構造変化の際に大きな溶媒和構造の変化が必要で,それだけ溶媒粘性の影響を大きく受けるためであると考えられる。これは酵素反応で観測されている動的溶媒効果が,酵素基質分子の構造的な大きさに起因することを示唆する結果であると考えられる。さらに,ジチゾン配位子の数が1の銀ジチゾナートを合成し,反応速度定数の圧力依存性を,亜鉛ジチゾナートのそれらと比較した。その結果,予想に反して,銀ジチゾナートは配位子を2個有する亜鉛ジチゾナートよりも大きな活性化体積を有することがわかった。これは,金属イオン周りの嵩高さの低い銀イオンのほうが亜鉛イオンに比べてより溶媒に対してあらわになっているため,配位子構造変化の際の金属イオン周囲の脱溶媒和が大きいためであると考えられ,溶質-溶媒相互作用もまた反応の動的挙動の大きさに強い影響を与えることを示す結果であるといえる。
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