研究概要 |
二価のサマリウム錯体を用いて,オルト-置換ホルミルフェロセンのピナコールカップリング反応の立体化学に関して研究を行った。オルト-置換基としては,配位性の強い,スルポキシド,ホスフィンオキシド,ピリジン,アミノ基および比較的配位性の強くないホスフィン,オキサゾリン基を持つ化合物について検討を行った。反応を理解しやすくするために,用いたオルト置換ホルミルフェロセンの面性不斉はすべて,Spとして考える。二価のサマリウム錯体として,調製が容易でで取り扱いやすいヨウ化サマリウム(II)とサマリウムトリフラート(II)を用い,比較検討を行った。オキサゾリン,ホスフィン置換ホルミルフェロセンのピナコールカップリングは,ヨウ化サマリウム(II)を用いたときは,立体選択性が全く観られず,アルコール炭素の立体化学が(R,R),(S,S),(R,S)の統計的な混合物となった。一方,サマリウムトリフラート(II)を用いたときは,高立体選択的に反応が進行し,(R,R)ピナコールが選択性良く生成した。スルポキシド,ホスフィンオキシド置換ホルミルフェロセンとの反応では,サマリウムトリフラート(II)を用いたときに立体選択性良く反応が進行したが,アルコール炭素の立体化学は(S,S)が主生成物となった。これは,置換基の酸素原子がサマリウムに配位をし,キレーション中間体を経て反応が進行したためと考えられる。ピリジン,アミノ置換ホルミルフェロセンとの反応では,ヨウ化サマリウム(II)とサマリウムトリフラート(II)のどちらを用いても,選択性はほとんど観られなかった。これら置換基は,サマリウム原子に対して中程度の配位性のため,キレーション構造と非キレーション構造の両方が中間に存在しているためと考えられる。生成した,フェロセニルピナコールをルイス酸触媒の配位子として用いて,各種不斉合成反応へと応用した。イッテルビウム錯体を用いた不斉ディールズ-アルダー反応が高いエナンチオ選択性で進行した。
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